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NY公共図書館エクス・リブリス [本・映画・TV・音楽など]

あまりの長さに諦めかけた「ニューヨーク公共図書館エクス・リブリス」と

いう映画を鑑賞してきました。上映場所は本の街・神保町の岩波ホールです。

0529図書館ポスター.jpg

89歳になるドキュメンタリー映画の巨匠、フレデリック・ワイズマン監督の

最新作。名称のパブリックは「公立」ではなく「公共」=誰にでも開かれている

という意味(運営母体は独立法人で市や州からの公的出資と民間の寄付により

成り立つ。)で、市民の誰もが歩いていける距離にあるよう作られた分館を含み

92の図書館が連携している世界最大級の知の殿堂、なのだそうです。

NY市在住・在勤なら原則無料で利用でき、観光スポットにもなっています。

(パンフレットより引用しています。エクス・リブリス=蔵書票、~の蔵書より。)



映画の中に出てくる「図書館は書庫ではない。人だ。」という言葉通り、この

図書館に関わる人々(企画運営をする人、問い合わせに答え、本の電子化作業、

仕分け・運送等の裏方仕事をする人、支援に携わるボランティア、講演会に招

かれた有名人(エルビス・コステロ、パティ・スミス、生物学者等)、利用者

の姿を3時間25分解説なしで、ひたすら追い続けるドキュメンタリーです。

インターネットの普及により図書館不要論も囁かれる中、従来のように本を借

りに来る人を待つのではなく、積極的に市民を呼び込み交流を促す等有意義な

活動をし、必要とされるものを提供していかないと来年度予算の保証はない!

(「予算も権利も上から与えられるのではなく自ら獲得するもの」というのが

民主主義の国、アメリカらしい?)スタッフは図書館の存続を賭けて真剣な

議論を交わしたりリサーチを重ねていくので、その活動を追っていくと自ず

とNYという街の裏側、住民が抱える問題が浮き彫りになります。例えば・・

                ※

○ネット環境が整っていない貧困層、移民、高齢者等を対象にしたデジタル

 格差の解消。(IT器機の使い方講座、備品の貸し出し、検索の手伝い等)

○差別が絶えず理不尽な扱いを受けている黒人の文化を正しく伝える。

○障害者が知識や情報を得、文化的な活動ができるよう支援をする。

○家庭に居場所がない子供に知識と将来の夢を与える場になる。

○絶滅が危惧される研究書や教育に関する本を購入・保護し後世に伝える。

○言論の自由を保証し、マイノリティへの偏見をなくす。(宗教、性等)

                ※

中には日本では公民館、児童館、職安、福祉団体やNPO法人が行っている様な

事まで図書館が担っていて(連携して場所を貸しているのも含め)社会的弱者の

救済に力を入れていることに驚きましたが、衝撃的だったのが図書館なのに本を

読む人が少ない事でした。本がベルトコンベアーを流れ捌かれる場面はあるので

当たり前の光景を写していないだけかもしれませんが、パソコンやスマホの操作

をしている人が多くて無料ネットカフェ状態なのでは、と思ってしまいました。

ジョゼフ・コーネルやA.ウォーホールらのアーティスト達が美術館所蔵の写真を

使い作品にしたという館員のレクチャーも、画像検索をマンパワーで行っていた

時代の話を博物館的に紹介しているように見えてしまいました。

紙の書籍の貸し出しは伸びないのに電子書籍は300%増、でも許可を得るのに

ベストセラーは時間がかかるから数年待ちになってしまう。需要の少ない価値の

ある本も購入したいが何を優先するか頭を悩ませたり、ホームレスが利用する事

の是非も議論されています。(日本でお断りの張り紙を見た事がありますが。)

図書館が市民にとって欠かせない身近な存在として機能しており、スタッフが

誇りと使命感を持って仕事に取り組んでいるのは素晴らしいことだと思いました。

が、出資者に不利な情報も平等に扱えるのか疑問に思ったり、最も上手くいって

いる所でさえこうなのかと紙書籍の行く末に危機感を覚えたり。格差社会の現実

と篤志家の存在についてなど、いろいろと考えさせられる作品でした。

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コメント 6

coco030705

こんにちは。
このドキュメンタリーはまだ大阪に来ていませんが、ぜひ観に行くつもりです。レビューをよませていただいたら、色々な問題点もあるのがわかりました。
紙の本と電子書籍の共存は、どのようになされていったらよいのでしょうか。図書館の戦いが目に浮かびます。

by coco030705 (2019-06-01 12:13) 

うりくま

>coco030705 様
この長さでこの内容、そして一般2000円という
料金でどれくらいの人が見に行くのだろうと思った
らほぼ満員でした。多く時間を割いている会議や
講演会の場面も結論ありきの空疎なものではなく、
伝えたいという意志が明確に感じられ退屈しません
でした。全国を巡回するらしいので是非ご覧下さい。
by うりくま (2019-06-01 14:10) 

リュカ

おお!ご覧になったのですね。
かなり深く掘り下げた映画みたいですね。
by リュカ (2019-06-01 15:22) 

うりくま

>リュカ様
リュカ様もよく図書館を利用されていらっしゃい
ますね。本館の建物がカッコイイし普通の閲覧や
書庫の様子も見たかったけれど、そこに主眼は置
かれていないのと、説明がないので誰が司書で誰
がボランティアだかわかりにくいのが残念でした。
レンタルで見たら気が散りそうですが集中して見
られたのが良かったかな、と思います。
by うりくま (2019-06-01 17:10) 

ニッキー

3時間25分のドキュメンタリー映画を
見にいくのは覚悟とタイミングが必要ですね=(^.^)=
図書館、最近は利用してないけど昔はお世話になりました^^
NYでの図書館の在り方を通して色々考えさせられる映画なんですね( ^ω^ )
by ニッキー (2019-06-02 15:41) 

うりくま

>ニッキー様
そうなんです。特に遠方から行く場合は・・。
無理矢理リベンジしてきました(^Д^)。
紙本と電子図書の問題を見ていると、レコード
がCDに替わっていったのを思い出しますが、それ
さえもう古い媒体に。。レーザーディスクという
のもありましたね~。話がそれてしまいました。。
こちらは以前はカビの生えた文学全集や歴史小説
が多く借りたい本がありませんでしたが、市が合併
して複数の図書館が連携してから蔵書量が格段に増
え、使えるようになりました。92の図書館というの
は驚異的ですね。
by うりくま (2019-06-02 22:50) 

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