雨の自然誌 [本・映画・TV・音楽など]
小雨の日が続いて関東地方は梅雨らしくなってきました。丁度、雨について
多角的に考察した『雨の自然誌』という興味深い本を読みました。
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この本は地球や火星・金星の成り立ちという壮大なドラマから始まりますが、生物にとって不可欠な地球の水がいかに奇跡的なバランスで保たれ、循環しているのか、その有り難さを再認識させられます。そして気象条件(長雨・洪水・干ばつ)と古代文明の盛衰・疫病の流行や、魔女狩り・西部開拓との関わりといった歴史的なトリビアや、各地で行われた雨乞いの儀式や迷信の数々、ジャーナリズムの先駆けにもなったという気象予報の歴史、雨具の発達と産業革命の影響、有名建築家が建てた家の不具合(ライトの落水荘が雨漏りと白カビに、ジェファーソン大統領の家は渇水対策に追われた)について、赤や黒色だったりカエルや小魚が降る奇妙な雨の話、雲を追い払ったり雨を降らす実験など、雨にまつわる多様な話に目から鱗が落ちる思いがしました。※雨が重要な役割を果たしたり多大な影響を与えた文学・音楽・映画(ディケンズの「荒涼館」、シェリーの「フランケンシュタイン」と小氷河期、ザ・スミスの曲と陰鬱な気候、エミリー・ディキンソンの詩、黒澤明の「七人の侍」等多数)の章も面白くてもっと頁を割いてほしいと思いましたが、きりがないといえばないかも。。冒頭と末尾にレイ・ブラッドベリの「火星年代記」「長雨」の話も登場します。※そんなこんなで雑学的な話で終わるのかと思ったら「都市の雨」という章からは切実な環境問題の話になり、これが著者の専門分野なのだと気付かされます。雨の多い地域で氾濫原に住宅や産業施設を建てたり、乾燥した地域に降るわずかな雨も帯水層にしみこませずコンクリートで固めた排水溝から海に流してしまうなど、人間の活動と近年の異常気象の関連について身につまされる話も出てきます。温暖化、暴風雨、洪水、干魃は別々の災害ではなく繋がっている事、自国ファーストなどと言っている場合ではなく世界中で連携して対策を取らないと、地球が生物の生存に適さない星になってしまうという危機感がより強まりました。う~ん、これを読むと首都圏外郭放水路もあまりよろしくないのかなあ。。
この本と並行して読んでいた2冊の感想も、覚え書き程度に書いてしまいます。
漫画家くらもちふさこさんの自伝と自作の解説が載っている「くらもち花伝」。
くらもちさんの作品の中で私が好きな作品群(東京のカサノバとか)を書かれて
いた頃から10年以上も、くらもちさんは鬱や統合失調症で苦しまれたそうです。
役者が演じるようにのめり込んで作品を描き、昼夜が逆転した生活を送った為か
とご本人は書かれていますが、精神状態が安定してからは登場人物のメンタルも
安定して表情があまり変らない作風になり、作品からはドラマチックな要素が
減っていったようなのです。
前述の「雨の自然史」や絵本「エミリー」に登場するエミリー・ディキンソンも、
傑作と言われる詩は精神が不安定になる雨の季節に偏って作られたという研究も
あるそうで、作家自身の幸せや健康と作品の質について考えさせられました。
自分も覚えがある切替式電話による盗聴?(「紡ぎ唄」)や、集合住宅のドアの
覗き穴、ダストシュートの話(「青い扉」)に懐かしさを感じつつ、重すぎる
片恋が破滅的な結末を迎える「恋人形」など、幻想的というよりは何気ない
日常に潜む狂気、偽善に対する容赦ない描写に慄然としました。最初は読後感
が良くないので途中で読むのをやめようと思いましたが、徐々に慣れてきます。
作者自身が球体関節人形に魅せられ作品に度々人形を登場させたり、方向音痴
で片付けられないなど共感できる所も多いと知って、ミステリー系の短編集・
「夜のアポロン」も読んでみたくなりました。
2019-07-14 00:35
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コメント(7)
こんにちは。
よく読書なさってるのですね。『雨の自然誌』、とても面白そうな本ですね。都市のコンクリートで固めた地面というのが、よくないみたいですよ。土が死んでしまうのだそうです。レイ・ブラッドベリの「火星年代記」「長雨」の話が出て来るなら、ぜひ読んでみようかなと思います。皆川さんの本もおもしろそう。
by coco030705 (2019-07-14 11:42)
> coco030705 様
いえいえ、最近は仕事で疲れてしまったり
長時間読むと目が霞んできたりでダメです。
今回は図書館で予約した本がまとめて回って
きて、やむを得ず同時に読みました(^^;)。
「夜のリフレーン」はバッドエンドが多く好き
嫌いも分かれると思いますが、「雨の自然史」
は図書館で借りられれば、かなりオススメです。
by うりくま (2019-07-14 17:26)
有名建築家が建てた家の不具合って納得できます。
気候の違いを考えないとそうなりますね。
日本とアメリカでは楽器の鳴りが違うとか、
外国車は日本の梅雨の除湿が苦手とか
そういうのも同じだと思います。
皆川博子、まだ読んだことがないんです。
皆川博子か山尾悠子か、とよく聞きますが、
wikiには中井英夫、赤江瀑への敬愛から
幻想文学へ、と書いてありますね。う~ん。
くらもちふさこもそんなことがあったのですか。
精神的にいっちゃってた人には
ヴァージニア・ウルフがいますが、
彼女は天才ですけれど精神的にはずっと不安定でした。
by lequiche (2019-07-14 22:57)
> lequiche 様
湿度を初め気象条件、水回り、立地は大事ですね。
敢えて「落水荘」は滝の上、「モンティチェロ」は
山頂に建てた時点で普通に生活するのは困難な物件
です。景観、鑑賞用としては素晴らしいですが。
雨漏りについての苦情も、自然を感じる暮らしを
理想としていたライトは「机を移動すればいい」と
相手にしなかったのだそうです。
安藤忠雄の「住吉の長屋」も雨の日は傘がないと
トイレに行けませんが、施主が永年住みこなしてい
る事に安藤自身が驚いたとか・・ナンテコッタ(゚o゚;)。
皆川さんは自分と同年代くらいかと思ったら何と
89歳なんですね。未だに精力的に執筆されてい
るとはビックリです。耽美とは思いませんでしたが
井戸の底をのぞき込むような嫌な感じが病みつきに
なりそうな予感もします。夢野久作しか読んでいま
せんが、中井、赤江氏の古典的な作品も必読書?!
「いつもポケットにショパン」も最初はほんわか
路線にするはずが、いつの間にか愛憎入り交じる
ドラマチックな話になってしまったとか。人物が
勝手に動き出してしまう作品ほど傑作になり易く
気持ちが開放的になり体が弛緩する陽光の下や、
溌剌とした健全な状態での創作は難しいというの
はわかるような気がします。ウルフの「灯台へ」
もまだ読んでいないのを思い出しました(^Д^)。
by うりくま (2019-07-15 01:26)
中井英夫は『虚無への供物』が有名です。
長いのが難点ですが。
それと基本的な推理小説の知識があると面白いです。
赤江瀑は『ニジンスキーの手』などの初期作品が良いですが
後は皆同じパターンといってしまえばその通りな感じです。
むしろ塚本邦雄の小説の方が読みやすいかもしれません。
『灯台へ』はテクニックとしてはすごいのですが、
ストーリーは淡々としていてよくわからない、
という印象を持たれるかもしれません。
ジョイス、ウルフ、T・S・エリオットという
「意識の流れ三羽ガラス」として分類される人です。
by lequiche (2019-07-16 02:37)
鬱陶しく思える雨でも
元は奇跡の賜物だと再認識させられそうです。
by 響 (2019-07-16 10:36)
> lequiche 様
ご教示頂き、ありがとうございます(m^^m)。
全部読破されているとは流石の読書量ですね。
「ニジンスキーの手」というタイトルは想像をかき
たてられ、塚本邦雄の短歌もいいなあと思います。
ジョイスは読みにくくて挫折した覚えがありますが
ああいう感じですか・・(^Д^)。生きている間に
あとどれだけ読めるかわかりませんが、囓ってみる
だけでも挑戦したいと思います。
>響様
雨が降らないと緑は枯れ川は干上がってしまう
とはいえ、そろそろ晴れてほしいですね( ̄∇ ̄)。
響様のブログは見事な青空や美しい緑や海の画像が
満載で、日々の憂鬱を吹き飛ばす威力があります。
爽快なツーリングの記事、楽しみにしています。
by うりくま (2019-07-16 22:02)