9月に見た映画・その2 [本・映画・TV・音楽など]
ベネチア映画祭で黒沢清監督の「スパイの妻」が銀獅子賞受賞。おめでとう
ございます。U-NEXTかテレビで見られるのは何年後かな?
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「潜水服は蝶の夢を見る」2007年フランス 監督ジュリアン・シュナーベル
原作ジャン=ドミニク・ホビー 出演マチュー・アマルリック
この詩的な映画のタイトルは、脳卒中で全身麻痺になった実在の人物(「ELLE」
編集長・ジャン=ドミニク・ホビー)が左目の瞬きでコミュニケーションを取り、
パートナーが一文字ずつ読み取るという気の遠くなるような共同作業で制作した
自伝の表題なのだ。体は動かなくても、過去の記憶と想像力があれば時間や場所
を軽やかに超えて飛び回ることができる・・。疾走する様な再現映像も美しく、
周りの人には聞こえない心の声は率直すぎて笑える。結婚はせず複数の女性を愛し
愛され子供とも遊ぶホビーのような人を「自由な家庭人」と呼ぶのですね。(゚o゚;)
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「ヒミズ」2011年 監督:園子温 原作:古谷実 出演:染谷将太 二階堂ふみ
ヒミズ(日不見)はモグラの一種。平凡な暮らしを望んでいる中学生の少年、
そのファンの少女の日常は暴力と虐待にまみれている。過酷な出来事が続き、
遂に少年は・・。絶望的な心象風景と東日本大震災後の廃墟の映像が重なり、
震災で生活基盤を失った者との交流、バーバーの弦楽のためのアダージョが
ドラマティックに絡み合う。悪夢のような現実の中、少年はいつもギリギリ
の所で自暴自棄になるのを阻まれ、人々の希望が託されるのだった。。
圧倒的な主演の二人はベネチア国際映画祭でマルチェロ・マストヤンニ賞を受賞。
染谷君は現在大河ドラマで信長を、ふみちゃんは朝ドラで主人公の妻を熱演中。
「写真家ミック・ロック ロック・レジェンドの創造主」
2017ギリス 監督:バーナビー・クレイ 主演:ミック・ロック
ロックの黄金時代(1970~1980年代)シド・バレット、デヴィッド・ボウイ、
デボラ・ハリー、QUEEN等、多くのスターと共に過ごし、間近で撮影し続けた
写真家ミック・ロック。所蔵する資料や写真を元に、ミック自身のナレーション
(声が小林克也に似ている)で当時を振り返り、裏話を語る。ワクワクします。
破天荒に見えるスター達の知的で繊細な部分に共鳴し、オーラを撮ろうとした
写真の数々は心底カッコイイ。QUEENⅡの有名なジャケットはマレーネ・ディ
ートリッヒの映画「上海特急」からヒントを得たものというのも知らなかった。
親の希望を叶えるべくケンブリッジ大を卒業したミックも、夜毎のパーティと
薬漬けで心身はボロボロになっていく・・そういう時代でもありました。
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「希望の灯り」2018年ドイツ 原作:クレメンス・マイヤー「廻廊にて」
監督:トーマス・ステューバー 出演:フランツ・ロゴフスキ
巨大スーパーの裏で商品管理を担う人々の日常を、靄がかかった夜景や
ライトに照らされた倉庫を舞台に描いたドキュメンタリーのような作品。
「美しき青きドナウ」に乗せてフォークリフトが滑らかに動き、閉店時
は店内に「G線上のアリア」が流れている。物質的な豊かさで心を満たす
ことはできず、東独時代を懐かしむ者もいる。それぞれ何らかの事情を
抱えているからこそ、前科者でも切り捨てない懐の深さや温かさがある。
市民の日常は、そんな彼らの日々の労働に支えられているのだ。
「マイ ブックショップ」2018年スペイン 監督イザベル・コイシェ
出演エミリー・モーティマー ビル・ナイ
本屋の無い町に、戦争未亡人のフローレンスが夫と約束した念願の書店
を開業する。フローレンスの信念は、心ある人々(引きこもりの老紳士、
卑怯な男の彼女、本に興味がない少女など)に変化を及ぼし、一歩踏み
出す勇気を与える。町の有力者・ガマート夫人に標的にされたフローレ
ンスは徹底的に嫌がらせをされ、好意を示してくれる人もろとも叩きの
めされてしまう。が、完全に滅ぼされた訳ではなく、精神は受け継がれ
ていた・・。
あのアンティークな本屋さんの雰囲気、品揃え、レイアウトが素敵すぎ
るので、どこかに再現してくれないかな。中に入って立ち読みしたい。
「マイビューティフル ガーデン」2016年イギリス 監督サイモン・アバウド
出演ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ トム・ウィルキンソン
前作とタイトルが似ているけれど、こちらはちょっとほんわかしたおとぎ話風。
植物が苦手な主人公の目を通して見える庭の映像は、カラフルだが花の輪郭が
ぼやけていて、妙な動きをする模様のようなのだ。(自閉症スペクトラムの
視点だろうか?)発達障害気味のカップル(自称作家と発明家)が惹かれ合い
機械仕掛けの鳥が物語を得て羽ばたく所は夢のようにファンタジック。彼女達
と料理人の親子が無事に暮らせますように。隣の老人もそう願ったに違いない。
「青い塩」2011年韓国 監督・脚本イ・ヒョンスン 主演ソン・ガンホ シン・セギョン
「人間には大切な3つの塩がある」というセリフを始め、キーワードは
ズバリ「塩」!中央の塩田で撃たれる写真に惹かれて見てしまった。
引退したマフィアの幹部が料理教室で先生にダメ出しされまくる。まさか
のハッピーエンド等、突っ込みを入れながら見るのが正しい鑑賞法かな。
「鉄輪(かなわ)」1972年 監督:新藤兼人 出演:乙羽信子 観世榮夫 フラワー・メグ
能の演目「鉄輪」と、その実写映像、現代の夫婦+愛人の愛憎劇が交互に繰り
返される実験的な映画。巳の刻参りの五寸釘を打ち付けるカーン!という音や
電話のけたたましいコール音が、夫と愛人をどこまでも追いかけて邪魔をする。
電話が普及し出した頃だから電話線は抜けないにしても、受話器を外しておけ
ばいいような?怖いのはホテル従業員の仮面と謎の対応、林光の音楽の方?
フラワー・メグのスタイルの良さ、エロっぽさも半端ないです(*゚∀゚*)。
「少年」1969年 監督:大島渚 出演:渡辺文雄 小山明子 阿部哲夫 音楽:林光
日本全国を転々としながら「当たり屋」をして暮らす家族による、実際の
事件をモデルにしたロードムービー。妻子の体を犠牲にして荒稼ぎした金
は、贅沢な旅館に泊まり芸者を上げて散財し、逆らうと手を挙げる最低男
を渡辺文雄、妻を小山明子という美男美女が演じて違和感がない。
少年役に抜擢された哲夫君は撮影後、養護施設に戻られたとの事。賢そう
な彼は、その後どのような人生を歩まれたのだろうか。胸が痛む。
出演:窪塚洋介 ARATA 中村獅童 竹中直人
久々に直球の青春スポコン映画を見て不覚にも感動してしまいました。
現実のスポーツ界でもよく聞く話ではあるけれど、天賦の才能があっても
プロにはなれない、ならない人がいる。その逆もまた然り。必死に努力し
ても、どこかで見切りをつけ現実に向き合わなければならない時が来る。
本筋とは関係ないけど、スーツ姿のクールなARATA(井浦新)が手取り
足取り指導してくれる卓球教室は女性客が殺到しそう(@^▽^@)。
「海月姫」2014年 監督:川村泰祐 原作:東村アキコ 出演:能年玲奈 菅田将暉 長谷川博己
オタク女子達が地味に暮らす天日荘が再開発で取り壊されることに。自分達とは
真逆のお洒落女子(実は女装趣味の男性)に背中を押され、協力して立ち上がる。
挙動不審で海月オタクの能年玲奈がチャーミング。菅田将暉や長谷川博己もいい
仕事をしています。クラゲがテーマのファッションショーも素敵で、肩の力を抜
いて楽しめるライトなコメディでした。
この後の作品は力尽きてコメントできませんでしたが、どれも良かったです。
「アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー」2015年アメリカ
「アリス」1988年スイス 監督・脚本ヤン・シュヴァンクマイエル
「Maiko ふたたびの白鳥」2015年ノルウェー 出演;西野麻衣子
「紅閨夢」1964年監督:武智鉄二 原作:谷崎潤一郎「過酸化マンガンの夢」「柳湯の事件」
「ジョゼと虎と魚たち」2003年 監督:犬童一心 出演:妻夫木聡 池脇千鶴
2020-09-27 12:47
nice!(22)
コメント(10)
9月もたくさんの映画を見られたんですねぇ( ^ω^ )
うちはかみさんが映画好きですが、「家で見てると
ニャンズに邪魔されるから、映画館で見る方が好き!」だそうですw
by ニッキー (2020-09-28 07:27)
>ニッキー様
ニャンズが割り込んできたら集中できないですね。
近くの映画館はショッピングモール内にしかなく、
職場が福祉系の為、出入りが禁止されています。
5人以上の会食も、片道1時間以上のドライブもNG。
感染防止の為、お籠もり鑑賞も仕方ないですが、
映画は映画館で観るのが一番良いですね!
by うりくま (2020-09-28 21:46)
大島渚の「少年」は、前々から観たい観たいと思い続けている作品なんでやすよ。
新宿のツタヤになくてがっかりしてたところでやす。
そうでやすか、少年役の子、そのような環境下の子だったのでやすね。
仰るとおり、今はどうされているのでやしょうね。
by ぼんぼちぼちぼち (2020-09-28 21:49)
>ぼんぼちぼちぼち様
近所のレンタル店は観たい映画のコーナーが縮小
されてしまい、どうしたものかと思っていました。
U-NEXTの視聴はカードの登録が必要ですが、
2023年12月まで「少年」が無料で見られます。
少年が卑屈になったり悲しんだりすることもなく
毅然として「仕事」に励んでいる所が何とも・・。
by うりくま (2020-09-28 23:20)
こんばんは。私もうりくまさんと同じように、昨日のコメントが消えてしまいました!ssブログ、どうしたんでしょう!とりあえず、仕切り直してもう一度お送りします。
黒沢清監督快挙ですね!「スパイの妻」ぜひ観ます。
たくさんの作品をご覧になりましたね。私も観たものがあります。
「潜水服は蝶の夢を見る」
これは面白かったという記憶だけが残っていて、筋書きは頭から消えてます。かなり楽しそうな映画、機会があったら再見したいです。
「マイ・ブックショップ」
これは大好きな映画です。女主人公のブックショップに並ぶ本がすばらしい装丁で、「華氏451度」や「ロリータ」など私の好きな本が出て来るのも魅力的。ビル・ナイがカッコよくて素敵でした。筋書きもおもしろかったですね。ガマート夫人を演じたパトリシア・クラークソン、本当に憎らしいおばあさんでした!すごい演技力だと思いました。
「アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー」
このすばらしくお洒落なおばあさん、確固たる好みを持っていて、すごく面白いですよね。こんな人にあこがれます。
そして、未見ですがうりくまさんの解説を読んで、「写真家ミック・ロック ロック・レジェンドの創造主」をみてみようとおもっています。Queenをはじめ、魅力的なアーティストのことがわかるのが面白そう。
by coco030705 (2020-09-28 23:40)
>coco030705様
コメントが消えてしまうとショックですよね(><)。
丁寧なコメントを再度お送り頂き、有難うございます!
映画館にはしばらく行けそうにないので、coco様の
感想を楽しみにしています。
「潜水服・・」は全身麻痺の主人公を前に女性同士が
取り合いをしたり、ルルドの泉にウンザリしたり、妙
にあっけらかんとしていて、ユーモアに笑ってしまい
ます。好きな映画ベスト10に入るかもしれません。
「マイ・ブックショップ」は取り上げた本が店長の
センスや方向性を表わしていると思っていましたが、
話の展開ともリンクしているかもしれないですね。
※本を読まない人が住む町→「華氏451度」
※若い少女を書店で雇う→「ロリータ」
※舟、勇気、残酷さ→「ジャマイカの烈風」とか。
配役も良くて、ガマート夫人なんてもう、五寸釘
を打ち付けてやりたくなるくらい憎らしいですね。
アイリスさんは、好きな事を追求して評価されて
94歳で現役、発言もお茶目、ご主人とも仲良し。
最高に幸せな人生ですね。見習いたいものです。
ミック・ロックというのは本名なのだそうです。
「レジェンドの創造主」の副題は少々大袈裟で
病院のシーンが無駄に長かったりもしますが・・
被写体が素晴らしくカッコイイので、それだけで
も眼福でした。(@^▽^@)
by うりくま (2020-09-29 02:25)
ガマート夫人に五寸釘!メチャ、おもしろいです。(^O^)
by coco030705 (2020-09-30 00:14)
>coco030705様
「鉄輪」を見たもので、つい・・。でも、もしそんな
事をしているのが相手にバレたら、五寸釘1000本返し
をされそうですね。(半沢直樹か?)怖いわ~( ̄∇ ̄)。
by うりくま (2020-09-30 06:55)
「五寸釘1000本返し」ありそう!(@^^)/~~~
by coco030705 (2020-10-01 23:35)
>coco030705様
乗って頂き、有難うございます( ´艸`)!
by うりくま (2020-10-02 23:29)