2024年1~3月に読んだ本 [本・映画・TV・音楽など]
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「夢の扉 マルセル・シュオッブ名作名訳集」(上田敏・種村季弘・渡辺一夫他訳)
1905年に37歳で亡くなったシュオッブの短編を収めた国書刊行会の美麗
装丁本。澁澤龍彦「鳥と少女」の元ネタ「パオロ・ウッチェロ」を同氏の
抄訳と渡辺一夫氏の翻訳で読めます。ジョルジュ・バルビエの挿絵付き。
「タイタンの妖女 新装版」カート・ヴォネガット・ジュニア 朝倉久志・訳
SFの古典的作品を今頃読む。太田光さんの事務所名の由来になった本だけ
あって奇想天外、空前絶後、面白すぎる~!「スローターハウス5」にも
驚愕しましたが、どちらも最高。この人の本、もっと読みたいです。
「保護ねこ活動ねこかつ!ーずっとのおおうちが救えるいのちー」高橋うらら
子供向けの本ですが、バックヤードの大変さがわかり、頭が下がります。
「あなたの燃える左手で」朝比奈 秋
著者は現役医師。移植手術後の幻肢痛の描写がリアルで、ちょっと苦手。
「新訳 建礼門院右京大夫集」島内景二:訳・著 (花鳥社)
平家の繁栄と没落を目の当たりにし、最愛の恋人への思い、失った苦しみ
を詠み続けた右京太夫の熱量に圧倒されました。
「独裁体制から民主主義へー権力に対抗するための教科書ー」ジーン・シャープ
簡潔、具体的に書かれた指南書ですが、ウクライナ侵攻前の著書です。
「大江健三郎 小説7 」雨の木を聴く女たち/新しい人よ眼ざめよ/静かな生活
字の細かさと本の厚みにひるむも、久々に読む大江文学はやはり強烈で
引き込まれます。W・ブレイクの予言詩、娘さんの視点など切り口を替
えて語られる光くんの成長する姿に励まされました。どこまでが事実か
わかりませんが、発言する人のご家族が危険な目に合う件は許し難く、
加害者に強い憤りを覚えます。光くんの妹マーちゃん、弟オーちゃんも
思いやりのある良いお子さんですね。(書かれたくないだろうけど)。
「恢復する家族」大江健三郎・文 大江かり・画
小説とは違ってエログロ抜きで安心して読めて?心温まるエッセー。
新たな経験や人々との出会いを通して、父は文章を書き、母はスケッチ
を、光くんは音楽を紡ぎ出すことに集中する、大江家の至福の時間。
遅ればせながら、大江健三郎氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
「清経入水」秦恒平
妖しく匂い立つような幻想的な作品(清経入水/蝶の皿/閨秀/陰水の)。
古書しか手に入りにくいのが残念。京都の文化も学べて一石二鳥。
「お城の人々」ジョーン・エイキン 三辺律子・訳
(ロブの飼い主/携帯用エレファント/よこしまな伯爵夫人に音楽を/
ハープと自転車のためのソナタ/冷たい炎/足の悪い王/最後の標本/
ひみつの壁/お城の人々/ワトキン・コンマ)
この本はイチ押しです!時に辛辣、時に笑ってしまう不思議でユーモラ
スな大人のための童話。ほぼハッピーエンドな所も◎で私は好きです。
「無垢なる花たちのためのユートピア」川野芽生
(表題作/白昼夢通信/人形街/最果ての実り/いつか明ける夜を/卒業の終わり)
どれも終わり方が唐突で、もう少しこの悪夢に浸っていたい気になる。
どれも終わり方が唐突で、もう少しこの悪夢に浸っていたい気になる。
美しさ、痛々しさ、残酷さに満ちた珠玉の短編集。あとをひきます。
たまたま「渡辺一夫」という同姓同名の方3名の本を読みました。①は1901年生
まれの仏文学者、②は1963年生の農学博士 ③は1941年生の編集者との事です。
①「渡辺一夫評論選 狂気について 他22篇」渡辺一夫(清水徹・大江健三郎編)
美しい日本語、学者としてのあり方、決然とした信念に、思わず姿勢を
正して読みました。「ユマニスム」は現代でも重要な指針になり得ると
思いますし、「寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべ
きか」も、何度も読み返して心に刻みたい名文です。その一方で下手物
(げてもの)好きと自ら仰る好奇心の旺盛さには親しみ易さも感じます。
図書館の本は変色して読みにくかったので購入して正解でしたが、でき
ればもう少し大きい活字にしてほしいです。(2023年発行でも小さい)
②「アジサイはなぜ葉にアルミ毒をためるのか」渡辺一夫
何故かというと、競争相手を減らし、食べられにくくするため。落葉
と共に有毒物質を体外に排出しているのだとか。自然災害など「攪乱」
に強い先駆種として生きるドロノキも、やがて「遷移」(植生の変化)
により追いやられる、など19種の樹木の謎や興味深い話。第三弾。
③「地球の石ころ標本箱 世界と日本の石ころを探して」渡辺一夫
ロンドンのタワーブリッジ下の川原の小石の種類、ライン川のローレ
ライの岩は古生代デボン紀(4億1920万~3億5890万年前)の堆積岩
だとか、スコットランドの街アバディーンは花崗岩の街と呼ばれてい
る等々、石に着目しながら旅をする醍醐味を教えてくれます。
※
あとはまだ読みかけですが・・・庭仕事に関する文芸書?2冊。
「庭仕事の愉しみ」ヘルマン・ヘッセ (フォルカー・ミヒェルス編)
学生時代に好きだったヘッセが、自然豊かな土地で庭仕事をしなが
ら暮らしていたことは知りませんでした。庭仕事に纏わるエッセー
や書簡などを集めたものの文庫版。自筆の水彩画、写真も掲載。
「庭仕事の真髄 老い・病・トラウマ・孤独を癒す庭」スー・スチュアート・
スミス著(和田佐規子・訳)著者は英国の精神科医・心理療法士で、
全英ベストセラーとなった本。初めの祖父の逸話から惹きつけられ
ました。厚みはあるけど読みやすいです。早く続きを読みたい・・。
2024-03-13 21:05
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コメント(6)
面白そうだなと思ったのは、「地球の石ころ標本箱 世界と日本の石ころを探して」渡辺一夫。旅先の国によって古い建築物に使われてる石も異なるので、石は気になる存在。いつか読んでみたいです。
by Inatimy (2024-03-16 00:05)
ヘッセの「庭仕事の愉しみ」ハードカバーは、ずっと前から本棚にある本。みたら、97年発行でした。挿絵があるので、ほのぼのとします。
一押しの「お城の人々」読んでみたいので、調べたら、女性作家なんですね。アラン・ポー風の作風という言葉にも惹かれました。
3人の渡辺一夫、紹介をつけてくださったので、生年から①を思い出しました。ガルガンチュア物語、岩波文庫の訳者。高校の時、「食いしん坊のあなた向き」と言われて読み始めたけど、難しくて、、。ここの「ユマニスム」「げてもの」の言葉で、本の内容を事を少し思い出しました。大江健三郎の師なんですね。
休日の朝、昔夢中になって読んだ大江健三郎の本のことも思い出し、
おかげさまで、良い時間を過ごしました。
上に4枚冬の写真を並べて、この季節に読んだ本という紹介のしかたがいいなと思いました。
by TaekoLovesParis (2024-03-16 09:34)
> Inatimy 様
「地球の石ころ標本箱」は、訪れた場所へのアクセス
も載っていて、拾ってきた石の写真が多いライトな読
み物です。著者は地質学者ではなく"石愛好者"という
感じなので、Inatimy 様には少し物足りないかもしれ
ませんが、その土地で産出する岩石が判ると街歩きも
より楽しくなりますね(^^)。
by うりくま (2024-03-16 22:37)
> TaekoLovesParis 様
「庭仕事の愉しみ」のハードカバーをお持ちでしたか!
当時ベストセラーになったようですが、その頃本を読む
余裕もなくて知りませんでした。並行して読んでいると、
反戦、非暴力を表明して叩かれる、軽薄で拝金主義的な
アメリカが嫌いなど、ヘッセと①の渡辺氏の共通するも
のが感じられました。渡辺氏は大江氏のエッセーによく
登場する恩師なので「一度読まないと」と思っていたら
シュオッブ他の翻訳は読んでいたことに後で気が付いた
り、あちこちが繋がってくるのが面白いです。
「お城の人々」は、う~ん、ポーみたいな耽美な幻想と
いうよりは星新一とか筒井康隆?「よこしまな伯爵夫人
~」や「ハープと~」が特に好きで、私は吹き出しなが
ら読みました。中には意味不明の短編もありましたが。
「ガルガンチュア物語」は未読ですが、渡辺氏の解説が
ないと、多分さっぱり良さが判らなかったと思います。
「食いしん坊~」(笑)Taeko様、美食家でいらっしゃ
るから・・。モーパッサンだったか?のゼミで、食べ物
の話だけでお茶を濁した酷いレポートを提出した苦い記
憶が蘇りました(^^;)。
大江健三郎も、たくさん読んでいらっしゃるのですね。
そういえば、平野啓一郎に通じる所もあるような・・。
高校生の頃「万延元年のフットボール」に衝撃を受け、
初期の短編は読んでいたのですが、かなりのご無沙汰。
大江氏は大学の恩師の友人だったと聞いていましたが、
もうどちらも故人となってしまいました。。
by うりくま (2024-03-16 23:37)
たくさん読まれていますね〜、すごいです。
朝比奈秋の『植物少女』は金原ひとみが褒めていました。
川野芽生もお読みになったんですか。
私は川野芽生はほとんど全部読んでいるはずで、
今のところイチオシ作家です。(^^)
今日読んでいたのは
石井仁蔵の『エヴァーグリーン・ゲーム』で、
エンタメなんですがよくできていると思いました。
そのうち感想文を書きたいと思います。
by lequiche (2024-03-17 00:37)
> lequiche 様
病気で動けず、効果音で動悸がするなど音にも過敏になって
しまい、本を読むのが唯一の楽しみでした。間もなくまた、
雑事に追われる生活に戻ります。ちょっと残念(^^;)。
図書館で借りると新刊が読めるのは数か月~数年後なの
で、読みたい作家さんの旧作を読むことが多いです。
川野芽生さんは lequiche様も取り上げておられますし、
以前「夜想・山尾悠子」のラピスラズリ評や「文学界
2023・5月号」の「奇病庭園(抄)」を読んで、何だ
か凄い人が現れたなと思いました。「無垢なる~」も、
性が否応なく搾取される事への強烈な嫌悪感とそれか
らの逃避=死という構図がラピスラズリ評にも通じる
というか凝縮されていると感じました。緻密な描写は
読む際に気力体力を要するので、もう少し回復したら
他の作品も読んでみたいと思います。
石井仁蔵さん、初めてお名前を知りました。チェスとか
将棋とか、頭脳プレイが苦手でも楽しめるでしょうか。
そうそう、King gnuについても判っていない者の代表
なので、是非解説をお願いしたくお待ちしております!
by うりくま (2024-03-17 22:02)